Subject: クルー契約について(res)
ボート評論家中島新吾氏からの提言です。
1月24日付けのE−mail、受領いたしました。また、そちらのWebも拝
見させていただきました。ご返事が遅れましたが、以下に考えるところを書い
てみたいと思います。
---16行省略---
さて、乗艇中の事故が起こったような場合、事故に遭ってしまった本人はそ
れを覚悟していたとしても、書類等の記録が存在しなかったとしたら、それを
証明する手段はありません。法的には、口頭の約束でも『契約』としてみとめ
られはしますが、ボーティングそのものが文化として根づいていない日本です
から、ボーティングにおいて起こりうるさまざまな可能性についての口頭の承
諾が、社会通念上の『契約』として解釈されるかどうかということになると、
少々疑問が残ります。
また、口頭によるものも含め、一切の契約ごとがなくても、社会通念上の暗
黙の了解(たとえば、ひとむかし前の企業入社時における終身雇用保証)とい
うのもあって、それはいわゆる『黙契(暗黙の契約の意)』として、これも契
約の一種としてみなされるというケースはありますが、もちろん、そういった
ものでもありません。
今の日本では、遊びでフネに乗って事故に遭い命まで失う、という一般社会
通念が存在しませんから、書類がなかった場合はもちろん、たとえあったとし
ても、それが明確に「生命の保証をしない」というような内容のものでなけれ
ば、まず通用しないでしょう。
セールボートのレースの場合、3種類の契約(場合によっては誓約書ということにもなるかと思いますが)が必要と考えます。
ひとつは、フネのオーナーと乗艇するクルー(この場合には艇長も含みます
)あるいはその代表との間のもの。これは、オーナーにとっては、事故が起こ
ったとしても、それが艇体の不備によるものではない、ということを言わんが
ためのものとなりますし、クルーにとっては、その逆に、事故が起こった場合
は艇体に原因が存在する可能性がある、という主張の根拠にもなるものとなり
ます。当然、内容についてはそれぞれの力関係によるものとなるでしょうし、
場合によっては、各部の強度を証明するような書類なども添付する必要が出てくるでしょう。
基本的に、艇体についての責任はフネの所有者にあり、操船に対しての責任はクルーにあるわけですから、当然、この契約書は必要のはずです。
ふたつめはクルー間の契約書(合意書というほうがいいかもしれません)。
これは誰をそのフネの責任者(通常は艇長)とするか、その責任者にはどうい
った権限が与えられるか、逆にどういった責任をもつか、といった取り決めと
なります。ここで責任者の免責事項を明確にしておかないと、事故が起こった
際の損害賠償を請求されるということになるわけです。
ただ、いかなる契約においても、それが法律に反した、あるいは社会通念上
認められない(これがやっかい)ものであった場合、その契約は無効になりま
す。たとえば「艇長のいかなる命令にも無条件で従う」などという項目は契約
になりません。
3つめは、レースの主催者と参加者間の契約です。これは、セールボートのレースのように、自然を相手にしなければならないケースで、特に重視しなければならないところで、主催者の免責事項がなんであるかを明確にしておく必要があります。天候の変化などはあってあたり前ですし、それを完全に予測することが不可能。それへの対応は参加者自身で行うしかない、というのもこれまた当然のことですが、そういった当然のことであっても、しっかりと明文化して記録するのが、契約の基本です。
たとえば、「主催者は天候などを考慮してレースを中止することがある」な
どという項目があったとしたら、これは絶好の損害賠償請求ネタです。悪天候で事故が起こったのは主催者が天候を考慮してレースを中止するという一項を無視したからだ、という解釈もできますから。
自分の生命財産は自分自身の責任で守る、ということは、改めていうまでも
ないことです。しかし、その言葉の裏には、他人の生命財産よりも自分の生命
財産を優先する、という一般にはタブー視されがちな意味があるわけで、それ
を明文化しなければならないのが、契約書であると考えます。(8行省略)海と
いうと、どうしても情緒的なところが先行しがちですが、ときとして生
命に関わる危険をはらんでいる以上、感情よりも論理を優先しなければならな
い部分があると思うのです。
思ったよりも文章が長くなりましたが、乱文、失礼いたしました。
中島新吾(マリンライター)
Subject: RE: クルー契約と登山契約
小生の場合は、個人的にはスポーツ保険に入っていますが、グループで連れていく場合の責任は特に今まで考えていません。考えなくてはいけないかも知れない。
大学で海外に学生を連れていく場合は、大学で旅行傷害保険をかけ、学生からは引率者の指導に従うこと、保護者からは保険の範囲を超えて損害の補償を追求しない念書を取っています。まあ、それでも訴訟の発生を100%くい止めることは無理でしょうが。引率教員はやはりリスクを負いますね。
竹内一夫(TK大教授)