マリーナと保管艇に係わるトラブルの事例研究     

 

 マリーナと保管艇との関係について、かって勉強した時のメモです。

 いづれも簡単には言い切れない問題で、僕の聞き間違いや解釈誤りがあるかもしれません。

 

 設問1、保管責任の範囲

  甲マリーナでは、乙との艇置契約に基づいて、乙所有の艇を保管していたところ、夜間何物かがマリーナ内に侵入し、当該艇が盗難にあった。甲は乙に対して損害賠償義務を負わなければならないか。

  なお、契約書には、

 (1)乙は、乙の責任と負担において艇を保守する。

 (2)第三者による艇および付属品に対する毀損、盗難等による損害、その他甲の責めに帰することのできない事由によって発生した損害については、甲は賠償の責めに任じない。

  との条項が定められている。

 

「解釈」

 私人間の契約は「契約自由の原則」により、どのように取り決めようと自由である。ただし、強行法規(契約のいかんに関わらず強行される法規)に反する契約、および公序良俗に反する契約は無効である。

 このケースの場合、艇置契約が「寄託契約」か「賃貸借契約」かにより対応が異なる。

 寄託契約  物を預かる契約である−保管義務が生ずる−善良なる管理者として

       の管理責任が問われる−置く場所はマリーナの自由である。

 賃貸借契約 置き場所を貸す契約である−使用収益させる場所を特定しなければ

       ならない−使用者はその場所を占有使用できる−ただし水面係留の

       場合、そこが公有水面だと他人に占有使用させる契約には問題があ

       る−使用者にある種の既得権が発生するおそれがある。

 賃貸借契約であれば、契約通りマリーナに損害賠償義務はないであろう。寄託契約の場合は、マリーナがどこまでの管理をしていたかが問題となる。世間常識的に充分な管理をしていて盗難にあったのなら、損害賠償は免れるであろう。その判定は裁判所が行なう。

 しかし一般に艇置契約は寄託と賃貸借が入り交じった契約になっており、マリーナは善管義務は果たしておかなければいけない。

 

 設問2、料金増額の可否

  甲マリーナでは、乙との艇置契約を更新するにあたり、艇置料を従前より20%増額することにして、乙に通知したところ、乙はこれを不服として、従前より5%アップの料金を供託するに至った。甲は乙に対してその差額分を請求することが出来るか。また、甲は契約を解除することができるか。

  なお、契約書には、

 (1)甲は、物価の上昇・その他経済情勢の変動等の事情により不相当になった

   ときは、料金の増額を請求することができ、その場合乙はこれに従わなけれ

   ばならない。

 (2)甲は、乙が本契約に定める義務を怠ったときは、契約を解除することがで

   きる。

  との条項が定められている。

 

「解釈」

 お互いの合意=契約は守らなければいけない。

 しかし継続する契約の場合、「事情変更の原則」というのがあり、著しく不公平な一方的変更は認められない。

 5%が適当か20%が適当かは、最後は裁判所の判断である。

 供託しているなら、契約解除はできないだろう。

 甲としては公租公課の変動、周辺マリーナの料金変動等、できるだけ具体的に数多くの条件を書いておいた方が良い。また、「甲乙協議の上、改定できる」とするのは非常に拙い。

 

 設問3、譲渡・転貸の承諾義務

  乙は、甲マリーナとの間で艇置契約を結ぶにあたり、入会金として年間艇置料の5倍に相当する1500万円を支払ったが、事情により艇を友人に売却することになったので、甲に対して、艇置契約上の地位を友人に譲渡することの承諾を求めてきた。甲はこの譲渡を承知しなければならないか。また、甲が譲渡を承諾しないため、乙が甲に隠れて又貸しをした場合、甲は契約を解除することができるか。

  なお、契侭書には、

 (1)契約期間中、乙の都合で契約を解約する場合には、理由のいかんを問わず

   、甲は入会金を返還しない。

 (2)乙は、本契約から発生する権利、義務を他に譲渡し、又は担保の目的に供

   してはならない。

  との条項が定められている。

 

「解釈」

 「債権譲渡の自由」は強行規定であり、債権者の権利である。

 しかし契約上の地位の譲渡は、債権・債務の複合体であり、すっきりとした債権譲渡とは言いがたい。

 艇置契約が寄託契約であれば、マリーナは乙が契約上の地位を譲渡した第三者に対抗できないのではないか。つまり一方的に艇を放り出すことはできない。

 賃貸借契約であれば、譲渡には甲の同意が必要である。

 一方、高額の権利金を徴収する場合は権利に譲渡性を付与したものと解釈される可能性があり(ゴルフ場の会員権等)、このケースのように1500万円もの入会金をとれば譲渡権を認めたものとみなされるであろう。

 いづれにしろ、契約書に(1)(2)の条項を入れておくことはそれなりに有効である。

 

 設問4、契約解除事由

  甲マリーナでは、乙との間で艇置契約を締結したが、乙は、他の利用者に対して度々粗暴な行動や卑猥な言動を用い、甲がこれを注意しても暴言を吐いて一向に従わない。甲は乙に対して、契約を解除することができるか。

  なお、契約書には、

 (1)乙は、甲の施設内において、甲又は他の利用者に迷惑を及ぼす行為をした

   ときは、甲は、直ちに本契約を解除することができる。

  との条項が定められている。

 

「解釈」

 この規定は有効であり、契約解除できる。ただしそれなりの客観性が必要であり、証拠・証言などを集めておいた方がよい。

 

 設問5、現状回復の手段

  甲マリーナでは、乙が艇置料を支払わないので、乙との艇置契約を解除したが、乙は自己の艇を一向に引き取ろうとしない。甲は乙の艇を撤去して処分することができるか。

  なお、契約書には、

 (1)本契約が終了した場合において、催告するも乙が艇を引き取らないときは、

   甲は、その所有権を放棄したものと認め、当該艇を艇置場所より撤去処分す

   ることができ、乙はこれに異義がない。

 (2)前項の場合において、乙が金銭債務の支払いを遅滞しているときは、乙は、

   当該艇をもって債務の弁済に充てることに合意し、甲において当該艇を売却

   処分したうえ上記債務を清算することに異義がない。

  との条項が定められている。

 

「解釈」

 法には「自力救済禁止の原則」があり、債権者が勝手に債務者の商品を処分したりすることはできない。仮処分の申請、競売公告等、裁判所がからむのはそのためである。

 代物弁済契約、その仮登記等の方法はあるが、艇保管においてそれができるか。

 やはり、契約書に書いてはあっても、売却処分についてはあらためて乙の同意をとる方が無難である。

・艇置料を払っていないという理由で上下架を拒否できるか。−−−契約同時履行の原則から、払うまでは動かせないとは言えるだろう。

・艇置料を払っていない艇の、オーナーによる搬出を拒否できるか。−−−寄託契約であればマリーナに留置権はあると考える。賃貸借契約だと、マリーナに留置権はないのではないか。しかし実際には契約はその複合体である場合が多い。自力救済ではなく、それこそ法に救済を求めたらよい。

                                以上

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